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大阪地方裁判所 昭和24年(ワ)1837号の1 判決 1963年10月10日

原告 奥田正太郎

被告 国

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

(原告)

一、別紙物件表記載の土地は原告の所有であることを確認する。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求めた。

(被告)

主文と同旨の判決を求めた。

第二、請求の原因

一、別紙物件表記載の土地は昭和二〇年以前から原告が所有してきた。

二、大阪府中河内郡加美村農地委員会(以下村農地委という)は昭和二三年七月右土地につき買収の時期を同年一〇月二日とする自創法にもとづく買収計画を定めた。右計画は異議訴願の手続を経て同年九月三〇日承認され、その後原告に買収令書が交付された。

三、しかし、右買収処分には次のような違法がある。

(一)  本件土地は財産税物納の認許をえていた土地である。

原告は、買収計画前に、本件土地を相当時価をもつて財産税法による物納に充当し、所轄税務署の認許をえていた。このような土地の買収は法律上無効である。もつとも、右物納の認許はその後取り消された。

(二)  本件土地は宅地である。

加美村、巽村、その他大阪市の東に隣接する町村においては、早くから大規模な耕地整理を行い、昭和二〇年末以前に整地、換地を終つていた。右耕地整理は、大阪府が認許した整理計画自体により明らかなとおり都市計画を目的とするもので、整地工事完成後の土地の区画の整正、道路、排水路の施設、町、丁目の呼称の使用等の現況からみても、本件土地の性質は明らかに宅地である。たとえ地目が田、畑のままであるとしても、このような土地が恒久的自作農地となるはずはないから、本件土地は自創法にいう農地にあたらない。

(三)  自創法第五条四号または五号により買収より除外すべき土地である。

自創法五条四号または五号の買収除外指定は、行政庁の自由裁量処分ではなく、土地の法律上の性質により自然的に決定されるべきものである。ところで、本件土地一帯の環境はすでに工業地化しているから、同法条所定の地域であることは明白である。

(四)  買収の対価が違法である。

本件土地は、前述のとおりすでに宅地化しており、買収の時期における時価は一反歩六万円であつた。このような事情を考慮せずに別紙物件表記載のとおり定められた本件対価は評価の基準が不法であるから無効であり、本件買収は対価を与えないでなしたに等しい。

(五)  買収手続が違法である。

(1) 買収計画

本件買収計画は、村農地委作成名義の買収計画書という文書で表示されている。しかし、村農地委に備えてある議事録によつても、右文書の内容と一致する決議のあつたことを明認しがたい。また右買収計画書には決議を要する買収計画事項の全部が完全には表明されていない。すなわち、右買収計画書は村農地委の決議に基づき、かつ法定の内容を具備する適式の買収計画書と認めるに足りない。買収計画書は委員会という合議体の行政行為的意思を表示する文書であるから、買収計画書に委員会の特定具体的決議に基づいた旨の記載とその決議に関与した各委員の署名あることをその有効要件とするが、本件買収計画書には右の記載と署名がない。

(2) 公告

市町村農地委員会はその決議をもつて買収計画の公告という行政処分をしなければならない。この公告は買収計画という委員会の単独行為を相手方に告知する意思伝達の法律行為である。適法な公告があつてはじめて買収計画に対外的効力が生ずる。ところが、本件買収計画の公告は村農地委の決議に基づいていない。それは、村農地委の公告ではなく、会長の単独行為であり、その専断に出たものである。また公告の内容は買収計画の告知公表であることを要するのに、本件公告は単にその縦覧期間とその場所を表示したにすぎず、自創法六条に定める公告としての要件を欠いている。

(3) 異議却下決定

これは買収計画に対する不服申立についての当該農地委員会の審判であるから、文書で表明され異議申立人に告知されることによつて効力を生ずる。ところが、原告に送達された異議却下決定と一致する決議を村農地委がした証跡は同委員会の議事録にもない。また、決定書は委員会の審判書といえる外形を備えておらず、委員会長の単独行為又は単独決定の通知書にしかすぎない。

(4) 裁決

大阪府農地委員会(以下府農地委という)が原告の訴願について裁決の決議をした事実はあるが、この決議は裁決の主文についてのみ行なわれたにすぎず、主文を維持する理由についての審議を欠く。故に裁決書の内容に一致する委員会の決議はなかつたというべく、裁決書は同委員会の意思を表示する文書ではない。また、裁決書は右委員会の会長である大阪府知事の名義で作成されているが、会長が訴願の審査と裁決の決議に関与しなかつたことは公知の事実である。故に裁決書は委員会の裁決に関する意思を表示する文書とはいえない。裁決書を会長名議で作成することは法令上許されない。

(5) 承認

買収計画の承認は申請に基づき、買収計画に関し検認許容を行なう行政上の認許で、行政行為的意思表示であり、行政処分たる性格を有する。買収計画はその公告によつて対外的効力を生じ、さらにこれに対する適法な承認によつてその効力が完成し、ここに確定力を生じて政府の内外に対し執行力を生ずる。ところで、本件買収計画に対しては適法な承認がない。府農地委が本件買収計画に対して法定の承認決議をした外形はあるが、その承認申請は村農地委の議決に基づかないでなされたものであり、しかも右承認の決議は裁決の効力発生前になされたものであるから無効である。また、本件買収計画に対して承認の決議はあつたが、決議に一致する承認書が作成されておらず村農地委に対する送達告知もなされていない。すなわち適法な承認の現出、告知を欠いており、承認という行政処分は存在しない。仮に右の決議をもつて承認と解しても、このような決議は法定の承認としての効力がない。

四、それゆえ、右買収処分は無効であり、本件土地はいまなお原告の所有であるから、その確認を求める。

第三、被告の答弁ならびに主張

一、原告主張一の事実は認める。

二、(一) 原告主張二の事実は、買収計画樹立の日時の点を除き、すべて認める。村農地委は、自創法三条一項二号の規定により、昭和二三年八月九日、買収の時期を同年一〇月二日とする本件買収計画を定め、同年八月三一日その旨公告として、同日から一〇日間これを縦覧に供した。同年九月六日原告から異議の申立があつたが、同月八日これを却下した。なお原告は訴願をしていない。同月二八日なされた右買収計画の承認申請に対し、同月三〇日承認があり、即日承認書が交付された。大阪府知事はその後買収令書を原告に交付し、同年一〇月二日本件土地を買収した。

(二) 本件土地のうち、柿花町三丁目七番地、四丁目三七番地、細田町八八番地の三筆(別紙物件表の(43)(49)(71)の土地、以下(43)の土地、(49)の土地、(71)の土地という)については、地番面積に誤りがあつたので、売渡を受けた者の同意をえたうえ、買収、売渡の処分を取り消すこととし、加美村農業委員会(以下村農業委という)において、昭和二七年一月三〇日大阪府知事に取消の確認申請をする旨決議して同日その申請をなし、同月二日府知事の確認を受け、同月五日買収、売渡計画取消の決議をしてその旨公告し、大阪府知事においても同日買収令書を取り消して、その旨の通知書を原告に発し、右通知書は即日原告に到達した。もつとも、村農業委は、同年二月九日、前回誤つて(43)の土地の一部として買収した柿花町三丁目六番地田一畝歩、同じく(49)の土地の一部として買収した柿花町四丁目一〇番地田一三歩の二筆の土地とともに、右(43)(49)(71)の土地につきあらためて買収計画を定め、同日その旨公告して同月一一日から一〇日間これを縦覧に供したが、原告からは異議の申立も訴願もなかつた。右買収計画は同年三月二五日承認され、その後原告に買収令書が交付されたから、原告はこれによつて再び右土地の所有権を失つた。

三、(一) 原告主張三の(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実中耕地整理が施行されたことは認めるが、その余の事実は争う。本件土地は農地であつて宅地ではない。

(三) 同(三)の事実は否認する。

(四) 同(四)の事実は争う。本件対価は適法妥当なものである。かりにそうでないとしても、対価については別に自創法一四条の増額請求の訴が認められている趣旨からみて、対価の違法は買収を無効とするものではない。

(五) 同(五)の主張は争う。

(1) 買収計画について

原告のいう買収計画書が縦覧書類以外のものであるとすれば、法はそのような文書の作成を要求していないから、原告の主張は法令上根拠がない。もし縦覧書類を意味するとすれば、自創法六条五項所定の縦覧書類の記載事項は、同条二項の議決内容に包含されるから、その議決があれば当然縦覧書類の記載事項についても議決したことになり、本件買収計画の内容に原告主張のようなかしはない。かりに議事録の記載からはそのような議決のあつたことが明らかでないとしても、議事録は一つの証拠方法にすぎないから、これによつて右議決がなかつたとすることはできないし、買収計画にかしがあるともいえない。また、縦覧書類に自創法六条五項に掲げる以外の事項の記載あるいは各委員の署名等をすることは法の要求するところではない。本件の書類の縦覧は、同法条掲記の事項をすべて記載した書面でなされており、その表紙には村農地委の名称とその買収計画書である旨の記載もなされているのであつて、その記載事項にかしはない。

(2) 公告について

公告は書類の縦覧とあいまつて買収計画の表示行為をなすものである。自創法六条五項は、買収計画を定める議決をしたときは必ず公告をすることを命じており、公告をするかどうかについてさらに議決する余地はないから、そのような議決をする必要はない。この公告は、買収計画を定めた農地委員会の代表機関である会長がなすべきものであり、その公告は当然委員会の公告としての効力をもつ。本件公告は、特段の議決を経ずに会長名義でなされたが、村農地委の公告として適法なものであり、会長の専断にでたものでも、その単独行為でもない。次に、買収計画の内容は縦覧書類により明らかにされるのであるから、公告には買収計画を定めた旨を表示すれば足り、その内容を表示する要はない。本件公告は、買収計画を定めた旨を記載したほか、併せて書類の縦覧の場所と期間をも記載した書面によりなされているのであつて、その記載事項にかしはない。

(3) 異議却下決定

村農地委は、原告の異議申立の理由有無、ならびにこれを認容すべきかどうかについて審議議決し、この議決にもとづいて決定書の原本と謄本を作成し、右謄本を原告に送付したものであつて、村農地委は右決定書謄本と同一内容の議決をしている。なお、右議決の有無と内容が議事録のみにより証明されるものでないことは買収計画について述べたとおりである。次に、異議却下決定については、法令(訴願法一四条参照)は理由を付した書面によることを要するとしているにとどまり、判決のようにこれに関与した者の署名押印を要求していないから、議決に関与した委員の署名押印等は必要でない。そして、決定書の原本、謄本の作成ならびにその送付は、右決定の表示行為であるから、公告の場合と同様に、委員会の代表機関である会長が自己の名義でなすべきであり、その行為は当然委員会の行為としての効力をもつものである。

(4) 承認

承認は府農地委員会が市町村農地委員会の定めた買収計画にかしがないかどうかを審査する行政庁内部における自省作用であり、当該行政庁が何びとの意思にも拘束されず、自発的になしうるものであるから、承認はその性質上申請の有無にかかわらずなしうるものである。従つて、申請が承認の有効要件であることを前提とする原告の主張は理由がない。

かりにそうでないとしても、自創法八条所定の要件をそなえたときは、市町村農地委員会は必ず承認を受けなければならないのであるから、委員会の代表機関である会長は、特段の議決を経ることなく、自己の名義で承認の申請をすることができる。その時期は承認前になされれば足り、訴願の裁決前であつても適法である。

承認の時期については、自創法八条が裁決のあつた後になすべきことを明らかにしているが、右にいう裁決があつたときは、承認が行政庁相互間の対内的行為であることからみて、買収計画が行政上の不服申立により争えなくなつたことが行政庁内部で明らかになつたとき、すなわち裁決の議決があつたときと解すべきであつて、裁決書謄本の送達後であることを要しない。従つて承認が裁決書送達後でなければならないことを前提とする原告の主張は理由がない。次に、承認は議決のみによつてその唯一の効力である買収令書交付の要件としての効力を生じ、これを市町村農地委員会に通知することを要しない。かりに要するとしても書面(承認書)による必要はない。行政実例では、本件の場合と同様、会長名義の承認書を作成し、これを市町村農地委員会に送付しているが、これは買収計画にもとづいて買収令書が発行されるかどうかを知らせるための行政庁内部の事務連絡にすぎない。

第四、証拠<省略>

理由

一、(買収処分の存在)

(一)  村農地委が原告所有の本件土地に昭和二三年一〇月二日を買収の時期とする買収計画を定めたことは当事者間に争いがない。成立に争いのない乙一ないし六号証によると、右買収計画は昭和二三年八月九日自創法三条一項二号の規定により定められたもので、同月三一日その公告がなされ、同日から一〇日間縦覧に供されたところ、同年九月六日原告から異議の申立があり、同月八日これが却下されたことが認められる。

そして、同月三〇日右計画が承認せられ、その後買収令書が原告に交付されたことは当事者間に争いがない。原告は訴願の手続を経た旨主張するがこの点について原告はなんら立証しない。かえつて、証人永田清之助の証言によると、原告は訴願をしておらず、従つてその裁決もなかつたことが認められるから原告の右主張はこれを認めることができない。

(二)  一部取消と再買収(被告主張二の(二))の点について

成立に争いのない乙一一号証の二、一二号証、一四ないし一六号証、作成日付の部分は文書の方式及び趣旨により真正に成立したものと認められ、その余の部分は成立に争いのない乙一三号証、文書の方式及び趣旨により真正に成立したと認められる乙一一号証の一、同一七号証に、証人山野長蔵、同永田清之助(一、二回)、同道庭富太郎の各証言を総合すると、次のように認められる。

前示買収手続においては、別紙物件表(43)の土地を柿花町三丁目七番地田一反一畝七歩と表示して手続がすゝめられたが、これは三丁目六番地田一畝歩と七番地田一反七歩の二筆の土地が誤つてそのように表示されたものであり、(49)の土地は同町四丁目三七番地田四反七畝八歩と表示されているが、これも四丁目一〇番地田一三歩と三七番地田四反六畝二五歩の二筆の土地が誤つてそのように表示されたものである。また(71)の土地は細田町四丁目八八番地畑二畝一八歩と表示されているが、八八番地畑一反四畝五歩のうち二畝一八歩を買収するものであるのに、誤つて一部買収をする旨の記載をおとし、単に右のように表示して買収が行われた。そこで村農業委は、すでに右土地の売渡を受けていた者らの同意をえたうえ、昭和二七年一月一九日に開かれた会議で(71)の土地について、同月三〇日に開かれた会議で(43)(49)の土地について、買収計画を取り消すべき旨の議決をし、これにもとづいて同年二月二日大阪府知事に買収計画取消確認申請をした。これに対し同日府知事の確認があり、同月四日村農業委にその旨の通知があつたので、村農業委は同月五日に開かれた会議で右土地の買収計画を取り消す旨の議決をし、同日その旨を加美村役場の掲示板に公告した。府知事においても同日右土地の買収令書を取り消し、その旨の通知書を翌日原告に交付した。

以上の事実が認められる。(43)の土地を柿花町三丁目七番地田一反一畝七歩と表示してなされた買収計画、買収令書の交付は、その表示からみて三丁目六番地田一畝歩をも買収するものであるとは到底解せられないし、七番地田一反七歩に対する関係でも右認定の事実によれば面積の記載が単なる誤記ではないのであるから、右表示は買収土地を特定するための記載として違法というほかはない。(49)の土地を柿花町四丁目三七番地田四反七畝八歩と表示してなされた買収計画買収令書の交付も、四丁目一〇番地田一三歩、三七番地田四反六畝二五歩を買収するものとして買収土地の特定方法が違法であることは(43)の土地について述べたところと同様である。次に(71)の土地を細田町四丁目八八番地畑二畝一八歩と表示しただけでは、八八番地畑一反四畝五歩を全部買収することとしただその面積の記載を誤つただけなのか、八八番地のうち二畝一八歩の部分のみを買収することとしたのか明確でないし、かりに一部買収であるとしても一筆の土地のどの部分で二畝一八歩を買収することにしたのか明確でないから、やはり買収土地の特定方法が違法である。従つて、右違法を理由に、村農業委がこれらの土地の買収計画を取り消し、府知事がその買収令書を取り消したことは違法ではない。また、前認定の事実によれば、その手続にも違法の点はない。右取消処分は適法である。

次に、文書の方式及び趣旨により真正に成立したと認められる乙一八、一九、二一ないし二三号証、証人永田清之助(二回)の証言により真正に成立したと認められる乙二六号証に、証人道庭富太郎、同永田清之助(二回)の各証言を総合すると次の事実が認められる。

村農業委は昭和二七年二月九日自創法三条一項二号の規定により、(43)の土地を柿花町三丁目六番地田一畝歩、七番地田一反七歩(49)の土地を四丁目一〇番地田一三歩、三七番地の一田九畝二五歩、三七番地の二田一反二四歩、三七番地の三田一反二畝二五歩、三七番地の四田一反二畝一一歩(71)の土地を、細田町四丁目八八番地畑一反四畝五歩の残地とともに、八八番地の一畑一反二畝二九歩、八八番地の二畑一畝六歩と表示したうえ柿花町四丁目三七番地の一ないし四については旧三七番地田四反六畝二五歩、細田町四丁目八八番地の一、二の土地については旧八八番地畑一反四畝五歩と附記し、買収の時期を同年三月三一日とする買収計画を定めた。右計画は、即日これを定めた旨の公告がなされ、同年二月一一日から二〇日まで縦覧に供されたうえ、同年三月二五日承認された。府知事はその後原告に買収令書を交付した。原告は右買収計画に対して異議、訴願をしていない。

以上の事実が認められる。

そこで、以下(43)(49)(71)の土地については右昭和二七年三月三一日を買収の時期とする買収処分(以下二回目の買収という)、その余の土地については昭和二三年一〇月二日を買収の時期とする買収処分(以下一回目の買収という)に、原告の主張する無効原因があるかどうかについて判断する。

二、(買収処分の効力)

(一)  本件土地は財産税物納の認許を受けた土地であるとの原告の主張について

本件土地が一回目の買収計画当時財産税法による物納の許可を受けていた土地であることは当事者間に争いがない。

しかし、不動産の物納は、国に所有権移転登記がなされたときに財産税の納付があつたものとされるのであるから(財産税法施行規則六〇条)、物納財産の所有権も物納の許可があつただけでは納税者から国に移転せず、右登記のあるまでは納税者に帰属すると解すべきである。そして、自創法三条一項は同項一号から三号までにかかげる農地は知事がこれを買収しなければならないものとしており、当該農地に財産税法による物納の許可があつたというだけでこれを買収できないとする法の規定はない。また、農地所有者の立場からみても、買収の対価と報償金の合算額が物納財産としての評価額より低額でない限り、すでに物納の許可を受けている農地を自創法により買収されても実質的な不利益を受けることはないと解せられるところ、物納財産の評価額、買収の対価の額はいずれも原則として賃貸価格に一定倍率を乗じて算定する方式がとられており(財産税法二五条一項、自創法六条三項)、物納財産の評価額にも買収の報償金に相当する額を加算する(財産税法施行規則一八条)等、立法上も両者は平衡関係を保つよう考慮が払われており、このような点からすると、法は、物納許可を受けた土地を買収するときには買収の対価と報償金の合算額を物納財産の評価額より低額に定めることを許さない趣旨であると解せられるから(この結果自創法六条三項但書の特別の事情として考慮されることもありえよう)、結局農地所有者は物納許可を受けた土地を買収されてもなんら実質的な不利益を受けることはない。もし、具体的な場合に対価の点で不利益なとりあつかいを受けたときには、自創法一四条の対価増額の訴によつて救済を受けることができるのであるから、そのような場合も農地買収処分そのものを違法とするに足りないといえる。それゆえ、財産税法による物納の許可を受けた農地であつても、国に対する所有権移転登記がまだなされていないときには、これを適法に買収することができると解すべきである。

本件の場合成立に争いのない乙一号証、証人永田清之助(一回)の証言によると、本件土地について財産税物納による所有権移転登記はなされていないことが明らかであるから、原告の右主張は失当である。

(二)  本件土地は宅地であるとの原告の主張について

本件土地について昭和二〇年末より以前に耕地整理がなされたことは当事者間に争いがない。原告は右耕地整理は宅地化の目的で行われた旨主張するが、右事実を認めうる証拠はなく、かえつて証人山野長蔵の証言によると、加美村、巽村、長瀬村の一部においては、かんがい用水として従前から利用していた大和川の水だけでは三年に一度ぐらい水不足となるので、右三箇村が連合して耕地整理を行い、満潮時の城東運河の水を六箇所に設けられたポンプでくみあげ、かんがい用水として利用できるようにしたものであることが認められる。すると、右耕地整理の行われた区域内にある土地はかえつて農地としての利用価値が高められたものというべく、本件土地が右区域内にあるというだけで自創法にいう農地でないとする原告の主張は理由がない。

(三)  自創法五条四号五号に関する原告の主張について

(1)  自創法五条四号の買収除外指定は、都市計画事業と自作農創設事業の調整のためにする都道府県知事の自由裁量処分であるから、その指定のない土地である以上適法に買収することができる。これと見解を異にする原告の同法条に関する主張は採用できない。

(2)  単に本件土地一帯の環境がすでに工業地化していると主張するだけでは、本件土地が自創法五条五号にいう「近く土地使用の目的を変更することを相当とする土地」にあたることを具体的事実にもとづいた主張とはいえないから、原告の同法条に関する主張は主張自体失当である。のみならず、右主張のような事実を認めうる証拠もないから、右主張は採用できない。

(四)  対価が違法であるとの原告の主張について

買収の対価については別に自創法一四条の訴が認められている趣旨からみて、対価の額に違法があつても買収処分の効力には影響を及ぼさないと解せられるから、原告の右主張はそれ自体失当である。

(五)  手続の違法に関する原告の主張について

(1)  買収計画について

成立に争いのない乙一、三号証、証人道庭富太郎の証言により真正に成立したと認められる同一八、一九号証、証人山野長蔵、同永田清之助(一回)、同道庭富太郎の各証言によると、一回目の買収計画は村農地委が昭和二三年八月九日に開かれた会議で乙三号証の買収計画にもとづいて審議議決してこれを定め、二回目の買収計画は村農業委が昭和二七年二月九日に開かれた会議で乙一九号証の買収計画書にもとづいて審議議決してこれを定めたものであつて、右買収計画書には、いずれも、買収すべき農地の所有者の氏名及び住所、買収すべき農地の所在、地番、地目(土地台帳上の地目と現況)及び面積、買収の対価、買収の時期が具体的に記載されていて、これらが右審議の対象となつたことが明らかであるから、結局自創法六条二項所定の買収計画事項全部につき村農地(業)委の審議議決を経ていることが認められる。また、買収計画書に、計画が議決にもとづくものである旨を記載することもしくは議決に関与した委員が署名することは、法律の要求するところではないから、これを欠いても買収計画ないし買収計画樹立の手続が違法であるとはいえない。

(2)  公告について

公告は、買収計画の表示行為であるから、市町村農地(業)委員会が買収計画を定めたときは、その代表者である会長がその権限においてこれをなしうるものというべく、これにつき委員会の特別の議決を要するものではない。また、公告の内容は、単に買収計画を定めた旨表示されておれば足り、買収計画の具体的な内容は縦覧書類に表示されるから、公告にこれを掲げる必要はない。成立に争いのない乙二号証と証人永田清之助の証言によると、村農地委は、昭和二三年八月三一日、第八回買収計画を定めたからその買収計画書(縦覧書類)を同日から一〇日間同委員会において縦覧に供する旨を表示した村農地委会長藤本清名義の文書(乙二号証と同一のもの)をもつて一回目の買収計画を公告したことが認められ、文書の方式及び趣旨により真正に成立したと認められる乙二一号証と証人道庭富太郎の証言によると、村農業委は、昭和二七年二月九日、第二三回買収計画を定めたからその買収計画書(縦覧書類)を同月一一日から二〇日まで同委員会事務局において縦覧に供する旨を表示した村農業委会長道庭富太郎名義の文書(乙二一号証)をもつて二回目の買収計画を公告したことが認められる。従つて、本件公告に原告の主張するような手続上のかしはない。

(3)  異議却下決定について

成立に争いのない乙四ないし六号証と証人永田清之助(一回)の証言によると、原告の一回目の買収計画に対する異議申立について、村農地委は昭和二三年九月八日に会議を開き、これを審議して却下する旨の議決をし、これにもとづいて同委員会長名義で異議を却下する旨とその理由を記載した決定書(乙六号証)を作成してその謄本を原告に送付したことが認められ、右決定書の内容と議決との間に不一致はない。そして、決定書は理由を付した文書であれば足り、他に特別の形式を要するわけではないから、本件決定書に右認定のような記載がある以上、審判書といえる外形を備えない違法があるとはいえない。また、決定書の作成、その謄本の送付は会長名義をもつてしてもさしつかえなく、これをもつて委員会長の単独行為または単独決定の通知にしかすぎないとする同原告の主張は採用できない。二回目の買収計画に対しては原告より異議申立がなかつたことは前認定のとおりであるから異議却下決定の適否は問題になる余地がない。

(4)  裁決について

原告が本件買収計画に関して訴願をしておらず、従つてその裁決もなされていないことは前認定のとおりであるから、原告の主張はその余の点について判断するまでもなく失当である。

(5)  承認について

市町村農地(業)委員会は、その定めた買収計画について、自創法八条の定めるところに従い都道府県農地(業)委員会の承認を受けなければならないのであつて、その承認申請をするにあたり特別の議決を要するものではない。また、異議却下決定ないしは訴願棄却の裁決が承認の議決後に行われたとしても、そのことは承認を無効ならしめる理由とならない(最高裁昭和三六年七月一四日判決、民集一五巻七号一八一四頁参照)。従つて承認の議決の手続に関する原告の主張はそれ自体失当である。次に、成立に争いのない乙八、九号証、同一〇号証の一、四に証人永田清之助(一回)の証言を総合すると、府農地委は昭和二三年九月三〇日に開かれた会議で一回目の買収計画を承認する旨の議決をし、これにもとづいて、右計画を村農地委の申請どおり承認する旨の府農地委会長大阪府知事赤間文三名義の承認書(乙八号証)が作成され、その後村農地委に送付されたことが認められ、文書の方式及び趣旨により真正に成立したと認められる乙二三号証に証人道庭富太郎の証言を総合すると、府農業委は昭和二七年三月二五日に開かれた会議で二回目の買収計画を承認する旨の議決をし、これにもとづいて、右計画を承認する旨の府農業委会長大阪府知事赤間文三名義の承認書(乙二三号証)が作成され、その後村農業委に送付されたことが認められる。承認書を会長名義で作成できることは公告について述べたところと同一であり、村農地(業)委に承認書の送付された日が買収期日後であつても、これによつて買収処分が違法となるものではない。従つて、承認の手続上のかしに関する原告の主張は理由がない。

三、(結論)

以上のとおり、本件土地の買収処分には、原告が主張する無効原因となるかしは存在しないから、本件土地の所有権は本件買収処分により原告から被告に移転したものというほかはない。

すると、本件土地が原告の所有であることの確認を求める原告の本訴請求は理由がないから、失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 前田覚郎 平田浩 野田殷稔)

(別紙物件表省略)

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